2012年4月 5日 (木)

出世(昇進)うつ病

長かった冬もようやく終わり、春めいてきました、何だかほっとしています。

Aさんは見るからに真面目そうな男性です、背筋をきちんと伸ばして座られ、言葉の端々に気を遣いながら私の質問に答えて下さいます。昨年の秋に同期のトップを切って管理職に昇進されたそうです。

元気一杯であった彼に変調が訪れたのは、それから2か月ほど経ってからでした。仕事上で小さなミスを犯し、上司から注意をされて以降の事です。自分のような者が、管理職になって良いのだろうか、会社の期待に応える事が出来るのか、部下は着いて来てくれるだろうか。謙虚で責任感の強い彼は管理職への昇進に、強いプレッシャーを感じて居られます。詳しく伺ってみると、ミスは小さなもので、それほど気に掛けるほどのものではなかったようです。

然し、Aさんにはそれ以降、自分はこんなポストに就けるような人間ではない、会社にも部下にも迷惑ばかりかけているとの思いが、次第に強まって来ました。眠れない、気分がすぐれない、会社に行くのが辛い、仕事に集中できない、等々の症状が現れて、心配された奥様の勧めもあり受診を決意されたそうです。

ゆっくりお話しするうちに、ミスは誰にでもある事や、自分が犯したミスがそれほど大きなものでは無い事に、少しずつ思いが至りました、病的な状態にあるから、薬を飲む必要がある事も理解して下さいました。ただ、「暫く、休みましょう。」と言う提案には、「それだけは出来ません、会社に迷惑をかけます。」と言われて、応じては頂けませんでした。

心配された上司が、少しだけ業務の負担を軽減してくれたことや、奥様の細かい心使い、服薬の効果もあって、Aさんは何とか出勤を継続しながら、少しずつ良くなられています。「業務の一環と思って無理に参加しようと思った日曜日のゴルフはさすがに休みました。」ーAさんにとっては大きな決断であったのでしょう。少しずつ元気を取り戻され、バランス感覚も蘇りつつあるようです。連休には、自分へのご褒美として奥様と旅行に行く計画も立てられました。どうやら、一番厳しいところを超えられたようです。

取締役に選任されることになったBさん、入社3年目でプロジェクトを任されたCさん等、同じような出世うつ病に悩まれている方は決して少なくありません。

「貴方は真面目すぎるのですよ。」とお話しすると、「先生、不真面目になるにはどうしたら良いのでしょう?」と質問されたりする事があります。

「不真面目になるには、どのような努力をすれば?」、こればかりは、答えがありません。

「私みたいになっては如何でしょうか?」とお答えして、互いにニヤリと出来るようになれば、もうしめたものです。

頃は春、まーのんびりと行きましょう。

2012年2月 2日 (木)

北風と太陽/男と女

A夫妻は頑張り屋です、結婚してお子さんが2人出来ても共働きを続け、30代のうちに立派なマンションを購入されました。ところが、マンションを購入した頃から夫婦関係が変になってしまったのです。口論が絶えず、それも子供たちの前で激しい言葉で罵り合ってしまう、子供の教育に悪い影響を与えてしまう事が心配だが、どうして良いかわかないと言って、ご主人が来院されました。

お話の最初はとにかく奥様の悪口でした、「冷たい女です、自分の事しか考えません。口論になると、自分がどれほど頑張って育児と仕事を両立させてきたかを延々と話し、だからこのマンションだって買えたのだと言い募るのです。」奥様を非難する言葉の厳しさと、詳細を極めた語り口には息苦しさを感じたほどです。

「大学の先輩・後輩で、クラブ活動を通じて知り合ったのですよね?」かなりのエリート大学卒、互いに成績も良く、容姿にも恵まれた、自信満々のカップルであったようです。最初は、奥様を罵っていたご主人ですが、何時しか「どうして、こんなふうになってしまったんでしょう、判りません、一生懸命頑張ってきたのに?」そう言って涙を見せられました。うつ病の症状も明らかです。

頑張って努力している時には、なぜか自己を肯定する気持ちが強くなります。高価なマンションを購入することが、二人の共通目的で一緒に戦い始めたものの、厳しい日常の連続に疲れて、何時の間にか一緒に戦う仲間であるはずの伴侶を非難する事になってしまったわけです。自己肯定の気持ちが強いほど、相手を攻撃する口調は厳しくなります、売り言葉に買い言葉、非難がエスカレートして、互いを深く傷つけあう結果になってしまいました。

然し、奥様がどんなに頑張っても、収入はご主人の方が多いですよね?怒鳴りあいになっても、男性の怒鳴り声の方が相手に与える恐怖は強いのもです。怒りを湛えた男性の姿、声・視線は、奥様にとっては堪らない恐怖に映ると思いますよ。総合的に考えれば、やはり、より強いご主人が奥様を恫喝していることになりませんか?私にはそう思えます。強い者が弱いものを恫喝したら、和やかな関係など生まれるわけはありませんね?

北風と太陽が”どちらが男の上着を脱がすことができるか”を競った、イソップ寓話は良く知られています。ビュービューと吹きかけた北風は男の上着を脱がすことが出来ず、暖かく照りつけた陽光に、男は自分から上着を脱ぎました。

「良い結果を信じて太陽になって下さい、奥様の心は必ずほぐれてきます。」

数十年ぶりの寒さが厳しい日本ですが、先日来院されたAさんは嬉しそうな笑顔を浮かべながら、「何だか、このところ少しだけ妻が優しくなって来ました。」と言われました。そうでしょう、お互いが好きで結婚したのだから!

待ち望まれる春の陽射しが、もうご夫妻の中で生まれかけています、

早く暖かくなれ!

2012年1月 4日 (水)

治る/治った

寒いときには心も冷えて、元気の無くなる方が多い(以前、季節性うつ病として触れました)のですが、幸いなことに当院では昨年末に多くの方が治療を終えられました。「もう大丈夫です、卒業ですよ。」とお話しすると、皆さん本当に素晴らしい笑顔を見せて下さいます、医師であることの幸せを実感する時です。「人間やってて良かったな。」と思います。

当院の疾患で一番多いのは、非定型うつ病です。患者さんに良く考えて頂くと、発祥に至る原因が存在します。その多くが、職場の人間関係と男女問題です、お一人でその両方を抱えている方も少なくありません。

服薬と通院精神療法やカウンセリング(心理士が行っています)を続けるうちに、患者さんは自分の置かれている状態が少しずつ見えてきます。どうして良いか判らない状態から、自分の精神状態が現在に至った過程が理解できるようになられます。暴風雨に巻き込まれ何が何だか判らない状態が初診時としたら、気象図にある低気圧と自分の位置関係が判り、あと何時間たてば暴風が過ぎて行くのかが判る、と言うのが何回か受診された後の安定期です。かなり辛い状態でも、人はその辛さの行方が見え、終わる時期を見通すことが出来れば、耐えられるものです。

台風が過ぎ、やれやれほっとする安定期を十分満喫されたら、薬を徐々に減らしてゆきます。そして、ある日待望の卒業がやって来ます。

「どうしてあんな辛い精神状態になってしまったか、ご自身が一番良く判りますね、ですからもう一度同じような状態になりそうになったら、悪い方に落ち込まないよう十分気を付けて下さい、回避行動を取って下さい。」

うつ病は再発することが多いものですが、この危険予知と回避行動をきちんと身に着けてくださった患者さんには、再発される方はとても少なくなります。

他科の医師と正月酒を飲んでいたら、「飲み過ぎて二日酔いをしたら、次は飲み過ぎないようになるって事だろう、だいたい心療内科は偉そうなんだよ!」と言われてしまいました、そんなものかも知れません(笑)

2011年11月 7日 (月)

仕事;仕事?仕事!

60代後半のAさんが、「自分は男性更年期ではないでしょうか?」と言って受診されました。大きな会社で役員を務められた後、子会社の社長を経て、昨年仕事から引退されたそうです。身体の小さな故障が色々と重なり、好きな乗馬やゴルフが出来なくなってから気持ちが沈みがちで、別荘の境界にある樹木を隣家の人が勝手に伐採してしまわれてから、全てが嫌になられたそうです。金銭的にも、身体的にも大きな問題を抱えられているわけではありません。Aさんの感じておられる空虚さは、仕事を引退された事が原因ではないかと思いました。非定型うつ病の標準的な処方をし、2週間の経過観察です。

2週間が経って、Aさんは満面の笑みと共に現れました、「いやー、お陰様で元気になりました、以前から頼まれていた仕事を思い切って引き受けました。先生とお話ししているうちに、働いていた方が良いんじゃないかと思いまして。」薬も確かに効いたと思いますが、仕事の緊張感の方が、Aさんを元気にする効果は大きかったと思います。

休職していた方が、不安や逡巡を乗り越えてようやく出勤し、何とか勤務を継続できるようになると、本当に良い笑顔を見せてくださいます。「何とか立ち直りました、もう大丈夫だと思います。」、自信を回復され、戻れた事への安堵を表現する笑顔は本当に気持ちの良いものです。やはり、人間は働いていた方が良いのでしょう。程度の差こそあれ、休んでいた学校・大学にまた通えるようになった場合にも同じような笑顔が見られます。人間は悲しくなるほど真面目な存在なのですね。

精神的な問題で追いつめられると、徐々に欠勤が増えます、それも所謂ポカ休ー事前連絡なく突然会社に行けなくなるーである事が殆どです。休んだのですから、のんびりすれば良いのに、休んでしまった自分の弱さを責め、迷惑をかけてしまった上司や同僚に申し訳ない気持ちが募り、気持ちはさらに落ち込んでしまいます。これが酷いと、翌日もまたその翌日も休んでしまい、申し訳なくてとても会社に顔を出せない、一方でこんなことでは首になるのではないかとの恐れも徐々に湧いてきます。典型的な悪循環です。

自分が心の問題を抱えていて、回復には休職が必要なことを十分納得し、医師の診断書をきちんと提出して、漸く本当の休職が始まります。自分の気持ちを職場から切り離すのには一定の時間がかかりますが、その期間が過ぎればもう大丈夫です。「人生の夏休みだと思ってはどうでしょう、10時前の一桁時間に起きて下さい、遅くとも1時前には寝てください、1日に1度は外出しましょう。」疲れ果てた心も、きちんと休ませてあげれば弾力を取り戻します。本当に元気になり、自分の best performance が出来るようになってから復職して下さい。それが自分にとっても会社にとっても最も良い事なのです、中途半端な復職をしてまた休んでしまうとしたら、それは自分にも会社にも大きな損失です。会社での自分の評価を下げ、当てにしていた人員の不足で業務に支障が出る、焦ることは何の得にもなりません。

『猿が人間になるに当たっての労働の役割』、題名の面白さに惹かれて、大昔に拾い読みしましたが、内容はすっかり失念し題名だけが浮かびます。労働価値説の当否を論ずる知識は持ち合わせていませんが、働くことは人にとって大切だと言っている事には賛成です、然し、面白い題名ですね。

「家でじっとしていると、自分だけが世の中から置いて行かれるようで堪りませ ん、1日それなりに働いてくると、自分がちゃんとしてる感じで安心です。」多くの患者さんが洩らされる感想です。

休みが必要なら、診断書を出して十分に休みましょう、

復職は十分に回復してからにいたしましょう!

長期休暇を取ってハワイで毎日ゴルフをする予定で出かけた友人が、ほんの数日で帰ってきました、「毎日遊んでいたら直ぐきに飽きちゃってさ、俺でも、やっぱ真面目な日本人なんだった!」

2011年10月 5日 (水)

依存

Aさんは、いかにも頭の良さそうな感じの方です、半年ほど前に職場の悩みが昂じ、眠れなくなったと言って来院されました。SDS(Self-rating Depressin Scale)で50程度のうつ病と診断し、治療を行って来ましたが、病状は一進一退。訴えられる職場での悩みも極めて多彩で、どこに悩みの中心があるかご本人にもはっきりとわかりません。医師と患者、互いにもどかしい思いで過ごしてきました。

ところが、ある日見違えるほど明るい顔で来院されました。「先生、私判ったんです。先生、この前の診察中に、Aさんは、会社に対して失恋したみたいですね。と言われたでしょう、あれから考えたら、私判ったんです。」

「私はあまり裕福でない家庭に生まれました、卒業した大学だって大したこと無かったのに、運よく今の会社に入れました(誰でもしっている大会社です)。私もう嬉しくて、本当に一生懸命働きました。自分と会社の一体感がとっても気持ちよかったんです。女でも結構出世できたし、大きなプロジェクトのリーダーだってやらせて貰って、結婚なんて考える気にもなりませんでした。会社と一緒に私が大きくなって、私がどんどん登ってゆくようで気持ちが良かったんです。でもそれがずっと続くわけないですよね、色々、沢山、お話しした苦情も結局、行き止まりになった事の愚痴なんです。私の努力に、何時も笑顔で応えててくれていた会社が、もう微笑んでくれなくなったんです。当たり前ですよね、私が執行役員になれるはずがないし、それなのに、まるで冷たくなった彼氏に懸命に尽くすみたいに、捨てないでって頼むみたいに、会社にしがみついていたんです。」

「でも、会社にずっと居られる人なんていないんですよね、社長だって変るんだから。誰にもで定年があるのが、会社なんですね。私、ようやく気が付いたんです。定年から逆算して、これからどう生きて行こうかと考えました。」

あれから2ヶ月が経ちました、仕事はきちんとこなしながら、彼女は生活の幅を大きく広げられました。身体を動かすことから、知的好奇心の満足まで、それはバランスの良い、豊かな自分の世界を設計し、生き生きと時間を過ごされています。

「私、会社依存症だったんですね。」、彼女が照れくさそうな顔で言われました、

次回から減薬に挑戦します、上手くいけば年末か年明けには、彼女も当院を卒業されると思っています。

2011年8月22日 (月)

寄り添って/大切な人がうつ病になった時

猛暑の後に、突然涼しくなりました、ほっとする反面なんだか物悲しく、少し気持ちの落ちる方が多くなる頃です。愁思、秋を深いところでじっと受け止めましょう、涼しさが体に染み渡った頃には心の方も落ち着いてきますよ。

大切な人がうつ病になってしまった時、どのようにすればよいかをお話しします。もちろん、外来治療で回復可能な場合に限った話で、自殺の危険があるような場合には緊急に入院させてあげてください。どうしても言うことを聞いてくれない、自殺の危険が切迫している時には110番でパトカーを呼ぶことも検討してください。

心の病気は目に見えません。高い熱が出たり、どこかの骨が折れていたりすれば、本人も周りも医療機関を訪ねることが当たり前に思えますが、心の病気の場合には、そうするまでの逡巡が長くなる傾向があります。医療一般で言われるように、早期発見、早期治療が大切なことは、心の病の場合にもあてはまります。無理して頑張らす、早めに医療機関に相談してください。 

「小さな薬を2~3錠飲んだだけで、こんなに楽になるなら、もっと早く来れば良かったと思います。」多くの患者さんが洩らされる感想です。

貴方の大切な方が心の変調を感じ、何度もためらいながら、最終的に受診を決断し、治療を受けながら少しずつ快方に向かう。その間、どのように接したらよいかをお話しします。

先ず、励まさない事が大切です。うつに落ちて行く過程で、患者さんは折れそうな心を鞭打ち、挫けそうな自分を叱咤激励しているのです、何とか元気になろうと必死でもがいているのです。それでもどうしようもなくなり、もう頑張れなくなっているのが、うつ状態なのです。強く励まされたことにより、「こんなに激励してもらえるのに、それに応えられないことが申し訳ない。」と言い残して自殺される痛ましい例は少なくありません。そんなことになっては、どちらにも大きな不幸になります、励まし、叱咤激励は絶対に謹んでください。「しっかりしなさい、ちゃんとしなさい。」等のような、説教や説得も止めましょう。もちろん、病気の方を非難することなど、決してあってはならない事です。

辛く苦しんでいる、貴方の大切な人に”精神的に寄り添って”あげましょう。何度も繰り返される嘆きや繰り言、悲しさの表現、それらを”決して論評することなく、飽きることなく”聴いてあげてください。それは、聴く側にとっても大変なことです、楽ではありません。でもあなたの大切な人が苦しみ悩んでいるのです、ぜひとも聴いてあげましょう、人の心の苦しみは、別の人の心が受け止めてあげることでしか癒せないのです。「お話ししただけで、ずいぶん楽になりました。」初診の後で大勢の患者さんが仰る言葉です。貴方は医師ではありませんが、患者さんにとって、とても近くにいる大切な人です、その人が自分を受け入れて理解してくれる、それは患者さんにとって医師の存在以上に心強いことです。聴いてあげることは、大切な人と一緒に病と闘うことなのです!

散歩は効果的です。自分の内側に目の向きがちな患者さんにとっては、いつもと変わらない周囲の姿を、信頼できる貴方と並んで確認するだけでも大きな心の癒しとなるのです。揺れ動き、不安に戦く心には変わらない周囲の姿と、理解してくれる貴方の存在が、何よりも大きな安らぎなのです。言葉を交わさなくとも、分かってくれる、自分を理解し受け入れてくれる人が隣に居て、自分と同じ状況の中を肩を並べて歩いていてくれる。自分の痛みと苦しみを黙って分かち合ってくれる、それはそれは大きな癒しです。その癒しは、貴方の大切な方の心にしみ込み、その方を支える力となります。

挫折感で心の置き所がなく、当時飼っていた大きな秋田犬と散歩に出ました。随分前、若かった頃の事です。あちこち歩き回ってから公園のベンチに座り込んで一人でため息をつきました。するとどうしたことでしょう、かれは突然ベンチに飛び乗り私の脇にぴたりと身体を寄せ、心配そうな顔でじっと私を見上げてから、引き綱を持っていた左手を優しくペロペロと舐めてくれました。文字通り、身も心も私に寄り添って、私を案じ、精いっぱいの慰めをくれたのです、人語を解すでもない彼の、精一杯の励ましでした。彼の頭をなでながら、涙にくれたことを思い出します。それからしばらくして、私は立ち直りのきっかけを掴むことができました。犬に出来ることが人に出来ないはずはありません、貴方の大切な人が苦しんでいるのです、貴方の心をその大切な人の心にぴったりと寄り添わせてあげて下さい、難しいことは言わないでもよいのです、貴方から通う心が、苦しんでいる大切な人にとって、何よりも大きな癒しになるでしょう。

四代前の愛犬の事を書いていたら、もう生後8ヶ月になった子犬が前足を私の膝に乗せて、散歩の催促を始めました。夏から秋への変わり目を彼と一緒に味わいに行くことにします。ホレホレ、そんなに焦れてワンワン吠えてはいけないよ!

2011年8月 8日 (月)

不機嫌社会を生き抜くー馬耳東風

上司から酷いことを言われてから、職場に行けなくなり、受診される方が増えています。お話を伺うと、「ゴミ、役立たず、虫けら、寄生虫」等のことばでののしったり、「結果を出せないなら、さっさと辞表を出して辞めろ。」と脅迫されたり、実際に殴られた例さえありました。本当に酷い power harrasment です。

また、うつ病の治療を受けながら働いている患者さんに向かって、「うつ病なんて、横着者の言い訳だ、根性無しが罹る怠け病だから、クビになって home less になれば直ぐ治る。」等と言い、更に追い込んでしまった例もあります。

奴隷制も身分制もあるはずのない現代で、何故こんな酷いことが起こるのでしょうか。たしかに厳しい経済状況の中、社会には出口のない不満が山積しています。社長が役員を叱責し、役員が部長を、部長が課長を叱責するといった構造の中で、30歳前後の方が心に大きな傷を負ってしまう例が多く見られます。

部下が上司の言うことを本気になって実行するのは、指示に具体性や妥当性があるのは当然として、何よりも上司を慕い、人間的に好いていればこそなのです。教育学の講義で「褒められた者は、叱られた者より伸びてゆく。」と教わったことを思い出します。こんな簡単なことを知らないで上司であるとは、本当に困ったものです。

毎年、3万人以上の方が自殺される今の日本を、このような発言をし蛮行に及ぶ人たちはどのように考えているのでしょう。相手の立場になって考えると云うようなことはないのでしょうか。自分の感情が暴れるがままに、反論できない立場にある部下を罵っている、醜い自分の姿に思いが及ばないのでしょうか、本当に情けなく思います。業務上の指揮命令は可能であっても、相手の人格と尊厳を傷つける行為はあってはならない事です。

ぎゃーぎゃー言われたら、言葉の暴力を受け流し、心に傷を残さないためには、馬耳東風で行きましょう。但し表情だけは思い切り深刻にして、聞いている振りをして下さい。愚か者に限って、自分が無視されていることには異常に敏感です、ご注意を!

以前、尊敬する人物からこんなことを伺いました、「頭の悪い上司が喚いていたら、聞いている振りをしながら、こいつの”あそこは、いまどんな格好をしているか”と考えると気が楽になるよ。」

不機嫌社会で潰れないようにしてください、どうにもならなくなった時、医師は貴方の見方です!

2011年7月 7日 (木)

愛?に関する諸問題

ある日、中年の御婦人が娘について相談したいと来院されました。結婚して1ヶ月もしないのに実家に帰ってきてしまったそうです。理由を聞いてもなかなか言わなかったのですが、無理やり聞き出してみると、「夫が性生活の上で恥ずかしい行為を強要するので耐えられなくなった。」とのことで、夫と二人で困っている。ついては、「先方を来院させるので先生から恥ずかしい行為を共用しないように、説教して欲しい。」と依頼されました。これが心療内科医としての仕事だろうか?といった疑問も湧きましたが、先方は婚姻の継続を希望しており、突然出て行かれた事に動揺し、仕事も手につかない状態と聞き、お気の毒と思いお引き受けしました。

翌週、その男性が来院されました、特に強い印象を与えない男性ですが、元気が無く、私から何を言われるのだろうかと恐れている様子が見て取れます。夫婦間の秘密に属することであり、大変言い難いかったのですが、「奥様が嫌がるような行為を強要しましたか?」と尋ねると、あっけにとられたようで私の言いたいことが良く解りません、再度同じ質問を重ねると、「とんでもない、ごく普通の行為を持っただけで、特別な事など何一つしていません、誓っても良いです。」と言われます、どう見ても嘘をついているようには思えないので、「そうですか、それは失礼しました。」と言ったきりで、お帰りいただきました。

その週の後半に、件の御婦人が来院されました、義息さんの答えをお伝えすると、「主人とも、そんな人には見えないけれどどうしたのだろうかと言っています。」と首をひねられます。次回は、お嬢さんと一緒にご来院頂くことになりました。

翌週、お母さんと共に来院されたお嬢さんを、お一人だけで診察室に及びしてお会いしました、大変に硬い表情をされています。男性に対してよりも更に言い難いことでしたが、お母様から伺った、実家に戻られた理由、それに関してご主人から伺った弁明をお話しているうちに、激しく泣き出されました。

「先生ご免なさい、嘘だったんです、それまで付き合っていた人に振られたので、私が婚約したと聞けば戻ってくれるのではないかと思って婚約したんですが、戻ってくれなくて、成り行きで結婚してしまいました。でも、前の彼のことが今でも忘れられないで、夫との夫婦生活が苦痛です、だから両親を納得させるために適当な理由を付けて実家に戻ったのです。母にはこのことは絶対に言わないでください。」

お母様には「、結婚してはみたものの、お二人に性格の不一致があり、結婚の継続が難しいようですから、関係者でよく話し合ってください。」とお話しました。しばらく経ってから、お母様から電話があり、離婚されることになったと伺いました?!?!

失恋してボロボロになった女性がかなり良く成られた頃、「今度は、良い彼氏を作りましようね。」とお話したら、「先生、後輩の若いお医者さんを紹介してください!」と言われました。もちろん、「結婚相談所ではないからダメですよ。」、「そうですよね!」といったやりとりで、患者さんと共に大笑いしたこともあります。

「先生、ここの事務に雇ってください、そうしたら何時でも診てもらえるし、診察費は給引きで行けるから。」と言われた患者さんも居られます。もちろん丁重にお断りしました。

心療内科の診察室では様々な人生が見え隠れし、色々な事が起こっています。

2011年6月15日 (水)

季節・気候と心の関係

記録的に早い梅雨入りとのニュースを聞いたと思ったら、沖縄はもう梅雨明けであるとか。雨降りが続き、高い湿度にムッとするいつもの梅雨時よりも、今年は気温の上下が激しいようで、風邪ひきの患者さんが多いです。私も鼻風邪を引き、「ヤブ医者みたいで可笑しいけれど、お気の毒、大切にしてください。」と患者さんにからかわれています。

ヤブ医者の語源は、患者さんがあまりに来ないために、玄関の前が竹藪になってしまった医師を意味するようです。では、タケノコ医者という言葉をご存知でしょうか、研修医時代に口の悪いご近所の飲み屋のお婆ちゃんがよく言っていました、「あんた達みたいな、勉強しないで酒ばかり飲んでいるタケノコ医者は、今に育ったら皆んなヤブ医者になるんだよ(笑)!」。帰国して挨拶に行ったら、懐かしがって涙を流しながら、「あんた、うちに飲み代の付けは残っていないのかい、早く若返りの薬を作ってよ、今度は真面目で良い男の亭主を見つけるんだから。」と泣き笑いをしてくれた彼女のご葬儀に、名誉教授・教授が大勢参列され、涙を浮かべておくやみを述べていらしたのを思い出します。

季節や気候は、人の心に大きく影響を与えます。秋から冬へと気候が変わるにつれて気持ちが落ち込んでしまう、季節性うつ病の方はかなり沢山居られます。うつ病とまでは言わないまでも冬に向かって気持ちの落ち込む方は珍しくありません。1年間の日照時間が短い地域で自殺が多いのは統計的な事実です。

ヨーロッパの主な都市はほとんどが札幌より北にあるため、秋と冬が同時に来るように感じられます。この夏から秋・初冬への季節の変わり目を、パリで経験しましたが、シャンソンの”枯葉”に歌われているような、物寂しい気持ちになりました。裕福なドイツ人でアメリカのフロリダに別荘を買い、晩秋から初春まで、そちらで過ごす人が大勢います。ヨーロッパの人は日本人よりも、陽光の素晴らしさを高く評価され、人の心に及ぼす季節・気候の影響について、よりはっきりと認識されているように思います。

気候の変化も人の心身に影響を与えます。寒冷前線が通過すると、喘息発作を起こす患者さんが増加するのはよく知られた事実です。巷に雨が降るごとく、わが心にも涙さしぐむ、、、。雨は、心を暗くする傾向が強く、重い雪空は人の心に強い閉塞感をもたらします。

では、冬に向かって心が落ち込んで行くときや、重苦しい気候ににすっかり心が暗くなってしまったときにはどうすればよいのでしょうか。症状がひどくて、どうにもならなければ、無理をされず、受診されることをおすすめします。ただ、”晴耕雨読”なんて素敵な言葉もあります、落ち込んだ気持ちを受け止めて、少し凹んだところから、自分と周囲を見回して見るのも悪くありません。

少しだけ欝の時の方が、人生の本質がよく見える、何より文章が書ける。行け行けドンドンの気持ちでは、何も見えてこないし、文章なんて全く書けない。ある芥川賞作家の言葉を思い出します。

2011年6月 2日 (木)

心の健康と仕事

仕事上の問題が原因で心の健康を損ねた、と言われる患者さんはとても多く、患者さん全体に占める割合もこのところ更に増加しています。入社して間もない方から、経営幹部の方まで、幅広い年齢の患者さんが居られますが、30歳前後の方が比率としては最も大きくなります。

仕事に関する問題は、1)仕事自体に問題がある、つまりこの仕事は自分に向いていない、今の仕事が好きになれない、等の場合と、2)仕事に関わる人間関係に問題があリ、上司、同僚、部下等との関係が悪くて悩んで居られる場合、とに大別されます。

もちろん、人間関係の悪さが原因となり仕事自体も嫌いになってしまう場合もありますが、人間関係の悪さが原因で心の健康を害されてしまう方が圧倒的に多く見られます。

一生懸命やっているのに、自分に対する上司の評価が低くて納得できない。とにかく結果を出せと強要し、上司の望むような結果が出ないと、「お前は馬鹿だ、役立たずだ、人間的にダメな奴だ。」と罵倒する。細かいことにまで口出しをして、週末でさえ携帯に苦情を言ってくる。露骨にえこひいきをする。セクハラをする。上司に対する訴えは多岐に及びます。

ずるく立ち回って、負担の重いところを他人に押し付け、自分は楽な部分を取ってしまう。失敗を他人のせいにする。反対意見を述べると、感情的に反発してくるので、冷静な議論が出来ない。同僚に関する不満も沢山出てきます。

責任感が無さ過ぎる、向上心が無い、叱ると拗ねて休んでしまう、注意をしたら逆切れして興奮状態になるので危なくて困る。あまり多くは在りませんが、部下に対する訴えもあります。

忙し過ぎても、暇を持て余しても、心の健康は損なわれてしまいます。

現在の仕事自体が嫌いで、どうしてもやる気が出ない場合には転職が第一選択です。収入は少し下がり、会社の規模も小さくなっても、「これこそ私の天職です。」と元気を取り戻される例は多く、遣り甲斐の大切さを痛感します。

人間関係で行き詰まってしまった場合には、休職することで自分の頭をリセットして、自分から対し方を変えることで、相手との関係改善が出来る場合も在りますが、社内移動や転職を必要とする場合も少なくありません。

『うつ症状が強い場合には、重大な決断をせず、先送りにする。』これはとても大切なことです。決断しようとする心労がうつ症状を更に悪化させ、うつのどん底で出した結論が正しいものである場合は稀です。

人生の夏休みと思って、先ずは一月くらい休んでみましょう。空が青かったことを再認識したり、長い間笑っていなかったことに気付いたり、休むことには本当に沢山の効果があります。苦しんでいた人間関係ですら、リセットして柔軟性を回復した頭で考えれば、今までとは違った視点から見直すことが出来ます。

薬と通院精神療法は、貴方が御自分を取り戻されるお手伝いを致します。

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